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ご近所獣医師田邊弘子のよもやま話 第19話 『食べること』について

『医食同源』という言葉が耳に馴染んだ昨今、愛犬の食べるものの内容について粉骨細心する飼い主さんはたくさんいらっしゃいます。では、愛犬の食の行動について気を使っている飼い主さんはどれほどいるでしょうか。

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おともだちの家に遊びにいったところ、その家のワンコが元気いっぱいに出迎えてくれました。「もうすぐ10歳になるのにやんちゃで元気過ぎるくらい。そしてとっても食いしん坊なの。この間なんか、ダンナが出しっぱなしにしていたバナナをペロッと食べちゃって」と話しだしました。家族が飲食の際にはワンちゃんは専用のお部屋かお庭で遊ばせているので、バナナなんて食べさせたことはもちろん、家族が食べている様子も見せたことがなかったそうです。だからご主人は、ワンちゃんがバナナを見つけたとしても食べないだろう(食べ物と認識しないだろう)と高を括ってしまっていたようです。「本当にこの子の食べ物に対する野生の勘には参るわ」と彼女。

本当に野生の勘?

果たしてそのワンちゃんがバナナを食べたのは、野生の勘に頼っての行動だったのでしょうか。犬に近い野生動物、例えばオオカミが食べ物を探す時、野生の勘を頼りに片っ端から食べられそうなものを口にしているのでしょうか。それでは、生きていくのに必要な食べものがなかなか見つけられないかもしれませんし、場合によっては体に良くないものをうっかり口にしてしまうかもしれません。そんな効率の悪いことをしていたのでは種の保存はおろか、自分の命だって始終危険に晒すことになってしまいます。

食べることは学習の賜物

オオカミは何をどう食べたらいいのかを、親や兄弟、一緒に暮らす群れの仲間から学習しています。生まれたばかりの赤ちゃんオオカミは初めはお乳を飲んでいますが、離乳の頃になるとお母さんオオカミの口の辺りをペロペロ舐めます。その刺激でお母さんオオカミは半消化の食べ物を吐き戻し赤ちゃんオオカミに与えます。
こういう行動を通して、赤ちゃんオオカミはお母さんの食べているものの臭いなどを学習していくのです。(ちなみに、イエイヌが飼い主さんの口の周りをペロペロ舐めるのは、赤ちゃんオオカミがお母さんオオカミにエサをねだる際に口の周りを舐める行動の名残りと言われています。)もう少し大きくなったら、親(や群れの大人)が獲って来た獲物を兄弟たちと分けあって食べ、さらに成長すれば群れで猟りに出かけるようになります。野生動物はこのようにして、どのようなものを食べるのか、その食べ物はどのように食べるのか、そして食べ物はどのようにして手に入れるのかを学習します。

見習うべきお手本がない

家庭で飼育されているワンちゃんも、食べることについて絶えず群れから学習しています。この場合の群れは、家族ですね。冒頭のワンちゃんも、飼い主さんはバナナなんて食べさせたことはおろか食べているところも見せたことがないから、バナナが食べ物だとワンちゃんが思うハズがないと思っていたようですが、ワンちゃんからすると、例え食べる現場を見ていなくても、飼い主さんの口の周りをペロペロした際お口からバナナの臭いが度々していれば、『いい臭いだなぁ。この臭いのするものは食べ物なんだ!』と学習しています。テーブルの上に同じ臭いの物体を発見したら、ワンちゃんは迷わず『食べものだ』と判断してしまう可能性はとても高くなります。(バナナだからまだしも、これがチョコレートだったりしたら命に関わる大問題です) 本来、群れの仲間から学習することは生きていくのに役立つ情報なのですが、ヒトとイヌは種が違いますので、ヒト(家族)のやっていることをワンちゃんがそのままなぞってしまうと、健康管理上あまり好ましくない状況になります。ヒト社会で暮らすイヌは見習うべきお手本がない状態と言えます。

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飼い主さんの配慮が不可欠

種の違うイヌという動物を、食の行動についてなんの配慮もしないでヒト社会で生活させると、イヌにとって十分な栄養が摂取できない食事の内容になったり、誤食で健康に関わる問題が起きたりします。
ポイントとして少なくとも以下の2点は注意してあげてください。『愛犬の食事の内容と量、タイミングは飼い主さんがきちんと管理する。愛犬の口の届く範囲には食べ物や食べ物に類似したもの(鑑賞用の植物、肥料、生ゴミなどなど)を置かない。』そして、これらの点について愛犬が学習で達成できるという期待は持たない方がいいでしょう。食に対する欲求というのは大変強いものなので、しつけで我慢させようとして、もしそれが成功したとしたら(そもそもあまり成功しません)、その代償として愛犬は過剰なストレスを抱えることになります。(目の前に食べたいものがあるのに食べてはいけないというのは、ヒトにとっても辛いことですよね)

食べるというのは生きていく上で一番基本となる行動です。当たり前過ぎて、かえって注意が向かない、そういったこともあるかもしれません。でも、日々のことです、例え小さな配慮であっても愛犬の一生のうちでは積もり積もって大きな影響を及ぼします。今一度愛犬の食を見直してみてください。

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田邊弘子
日本大学卒業。動物病院での勤務を経て、現在ダイレクトワンの明るい相談窓口として活躍中。犬の食事やしつけに関して一般の人にわかりやすく伝えようとこのコーナーを担当することに。「みなさんと同じ目線でワンちゃんと楽しく暮らせる情報をお届けします」と意気込みを語る。

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